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非上場株式の評価は「純資産+収益力」へ?

第5回有識者会議と最新報道から見る、事業承継への影響
情報基準日:2026年8月21日
〇最初に押さえておきたいこと
2026年8月20日の国税庁有識者会議(第5回)では、非上場株式の評価について、これまでより具体的な見直しの方向性が示されました。報道では、新ルール案として2027年度税制改正大綱への反映や、2028年1月以降の相続からの適用を目指すとの見方も出ています。ただし、現時点で改正内容や適用時期が正式に決まったわけではありません。
中小企業の相続や事業承継では、社長が保有する自社株をいくらで評価するかによって、贈与税・相続税の負担が大きく変わります。今回の見直しは、単なる計算方法の変更ではなく、これまでの自社株対策そのものに影響する可能性があります。
〇今回のポイント
・会社規模による区分を廃止し、広い範囲の会社を共通の評価方式で評価する方向が示されています。
・類似業種比準方式については、理論的根拠や実証的裏付けが乏しいとして、存置は困難ではないかとの見方が示されています。
・新たな軸として、「簿価純資産」と「収益力」を組み合わせる残余利益方式が具体的に示されました。
・税負担は一律に増えるとは限らず、高収益の会社では評価上昇、低収益・赤字会社では評価低下となる可能性があります。
1. 何が大きく変わりそうなのか
現行制度では、会社規模や株主の立場に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などを使い分けています。ところが、方式によって評価額に大きな差が出ることから、会社規模の操作や株主構成の調整などを使った評価額圧縮スキームが問題視されてきました。
第5回資料では、この問題に対して、会社規模ごとに異なる方式を用いるのではなく、規模にかかわらず共通の評価方式を使う方向が示されています。つまり、これまでの「大会社・中会社・小会社」という前提そのものが見直される可能性があります。
2. 類似業種比準方式は「存置困難」へ
特にインパクトが大きいのは、類似業種比準方式の扱いです。類似業種比準方式は、上場会社の株価を参考に、自社の配当・利益・純資産を比較して株価を計算する方法で、中小企業の事業承継実務では広く使われてきました。
しかし、国税庁資料では、類似業種比準方式について、理論的な根拠や実証的な裏付けがなく、他分野の企業価値評価では用いられないと整理されています。そのうえで、企業の収益力を企業価値の要素として重視する「インカムアプローチ」を主軸とする方向が示されました。
〇見直しの本質
評価のものさしが、上場会社との比較から、自社の「簿価純資産」と「収益力」をより直接的に見る方向へ移る可能性があります。
3. 新ルール案の軸は「残余利益方式」か
第5回資料では、「仮に」残余利益方式を採用した場合の評価イメージが示されています。残余利益方式とは、会社が保有する資産をベースにしつつ、通常期待される利益を上回る収益力を株価に反映させる考え方です。
株式評価額のイメージ
簿価純資産 +/− 数年分の超過収益(残余利益)
※赤字または低収益の場合は、簿価純資産から減額されるイメージです。
この方式では、昔から使用している事業用土地などを評価時点の時価に洗い替えるのではなく、継続使用を前提とした帳簿価額を使う方向が示されています。また、計算に必要な資料も、直前期末の貸借対照表と過去数年分の損益計算書等を中心とするイメージです。
報道では「5年分の利益」を見る案も紹介されていますが、国税庁資料では、有識者から5年分がよいのではないかという意見があったという位置付けです。最終的な年数、還元率、対象会社の範囲は今後の検討事項です。
4. 一律の増税ではない。影響は会社によって分かれる
今回の見直しは、単に非上場株式の評価額を一律に引き上げるものではありません。むしろ、会社の実態に比べて評価額が低くなりすぎるケースを是正しつつ、継続企業としての実態や収益力を評価に反映させる方向といえます。
新聞報道では、新ルール案による試算として、高収益で規模の大きい会社では評価額が上がる一方、収益力が高くない中小・零細企業では評価額が下がる可能性も示されています。資産はあっても利益が少ない会社では、相続税負担が軽くなる可能性もあります。
影響が分かれやすい会社
・高収益で、類似業種比準方式の影響が大きい会社:評価額が上がる可能性があります。
・低収益・赤字で、簿価純資産が大きい会社:簿価純資産から減額される可能性があります。
・不動産・有価証券を多く持つ会社:特定の評価会社や貸付用不動産の扱いが重要です。
・持株会社・グループ会社:グループ全体での評価が検討されています。
・従業員持株会・種類株式・配当還元方式を使う会社:適用範囲や固定価格株式の見直しに注意が必要です。
5. 評価額圧縮スキームへの対応も具体化
第5回資料では、過度な評価額圧縮への対応も具体的に示されています。たとえば、会社規模の操作による評価額圧縮については、規模にかかわらず単一の評価方式を使うことで対応する方向が示されています。
また、オペレーティング・リース、多額の役員報酬、一時的な役員退職金などによって利益を一時的に操作するケースについては、非経常的な損益を除外し、企業の正常利益で評価する方向が示されています。
さらに、グループ法人税制を活用して親会社の利益や資産を子会社へ移転するケースについては、完全支配関係にあるグループ法人をグループ全体として評価する方向が検討されています。株主構成や議決権割合を操作して配当還元方式のみを適用するケースについても、対象株主の範囲や従業員持株会との関係を整理する方向です。
6. いま確認しておくべきこと
現時点では、改正内容や適用時期はまだ確定していません。そのため、報道だけを理由に急いで贈与などを進めるのは慎重であるべきです。一方で、見直しが具体化してきた以上、何もしないまま待つのも得策ではありません。
確認しておきたい実務ポイント
・現在の自社株評価:現行方式での株価と、純資産・利益水準との関係を確認します。
・簿価純資産と過去数年の利益:残余利益方式の考え方で、評価額が上がりそうか下がりそうかを把握します。
・役員報酬・退職金・リース取引:非経常的な損益として修正対象になり得る項目がないか確認します。
・株主構成・種類株式・従業員持株会:配当還元方式や固定価格株式の見直しの影響を確認します。
・事業承継の時期:2027年度税制改正や経過措置の有無を見ながら、贈与・相続対策のタイミングを検討します。
まとめ
8月20日の第5回資料と最新報道により、非上場株式の評価見直しは、従来よりかなり具体的な段階に入ってきました。特に、類似業種比準方式の見直し、会社規模区分の廃止、残余利益方式の導入可能性は、今後の自社株対策に大きな影響を与えます。
もっとも、今回の見直しは「中小企業の事業承継を一律に重くする」ものではありません。高収益会社では評価額が上がる可能性がある一方、低収益・赤字会社では評価額が下がる可能性もあります。重要なのは、自社にとってどちらの影響が大きいのかを早めに確認しておくことです。
将来の相続や自社株の承継について気になる点がありましたら、お気軽にご相談ください。
参考:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)資料」(2026年8月20日)、新聞報道(2026年8月下旬)
※本稿は情報基準日時点の公表資料・報道をもとにした一般的な整理です。今後の法令・通達改正により内容が変わる可能性があります。